友達以上、恋人未満7 本文へジャンプ



「………はぁ」

オレは、大きな溜め息を吐いた。
そんな溜め息も本日で5度目だ。

あれから、オレはぐっすり眠ってしまって気が付いたら鷹史の姿はなくて、鍵もしっかり閉めてあり郵便受けに鍵が入っていた。
使った食器も洗われていて、机の上は綺麗に片付けられていた。


(ほんとにマメだよなぁ、アイツ)

見た目は男らしく、家事などしなさそうなのに、鷹史は意外となんでもこなせるらしい。
作ってくれた料理も旨かった。
せっかく作ってくれたのに、あんなことしてたから冷めてしまい、更にオレは寝てしまった為、朝に温めてから食べたのをぼんやりと思い出した。

(マメで、料理も出来て、オレのこと好きとか……アイツが女なら良かったのに…)


なんて無責任な考えが浮かぶ。
しかし、すぐに(女ならオレを襲わないか)と苦笑いして考えを打ち消す。


冒頭に戻るが、何故オレがこんなに溜め息をついてるかと言うと…。
実はあれから、鷹史に何度も誘われるのだ。
鷹史のマンションに。
どう考えても、この前の続きをしようというのが見え見えだ。

正直、性別を抜きにして、鷹史に惹かれ始めていると思う。
身体の関係は、最後までしていないが、際どい所まではしてる訳で……。
気持ち良かったのも事実。

オレって、男相手でも大丈夫な性癖だったのかな。
チラリと、隣でPC画面に向かっている太田を見る。

(てことは、こいつに告白でもされたらオレは反応すんのか?)

疑問と共に、太田にキスされる想像をして、鳥肌が立つ。


(うげぇ……無理無理!)

頭を降って、急いで想像を打ち消す。
そこには、少しのトキメキもない。

(ってことは、やっぱり鷹史が特別ってことか?)

ほんのり、顔が熱くなるのを感じる。
認めたくないが、そういうことなんだろう。

昔から、出来の良いアイツと比べられ、コンプレックスも感じていたけど、やっぱり憧れるところもあって、密かに自慢の幼馴染みでもあったのだ。
まぁ、年下なのに偉そうなのは今でもムカツクけど…。
でも、意外と可愛いとこがあるのを知ってしまって不覚にもキュンとしてしまったことは秘密だ。


「はぁ…」

だからと言って、今更気持ちを伝えるなんて恥ずかしくて出来ない。
本日、6度目の溜め息を吐いた。

すると、隣から呆れたような声がした。

「おーい、さっきから溜め息ばっかりなんだよー」

太田が呆れた顔でこっちを見ている。

「最近、お前溜め息多いなぁ」

少し心配したような顔で、覗き込んでくる。

そういえば、太田の前ではよく溜め息を吐いてるなぁ。

「お前さぁ、男に可愛いとか思ったことある?」

ふと、無意識に疑問を質問していた。

「はぁ?」

案の定、目を見開いた太田が驚いている。

「なにそれ?お前、趣旨替えしたの?」

若干、引いてるのは気のせいだろうか…。

「んなわけねーだろ…」

今のオレは、小さく否定するので精一杯だった。





◇◇◇


そんなある日。
今日は、午後から太田と営業で外回り。
仕事も一段落つき、時計を見ると昼を過ぎているのに気付いた。
近くの喫茶店に入ろうとした所で、道路の反対側に見慣れた姿を見つけた。
オレの隣を歩いていた太田も気付いたのか、声をあげた。

「あれ、岩松じゃねーか?」

頷こうとした瞬間、鷹史の隣に見慣れない姿を見つけた。



(―――え…)

ドクンと心臓が跳ねた。

「お?隣の美人は彼女か?」

オレの驚きなど知らず、太田は、羨ましいーと嘆いている。
そう。鷹史の隣には、黒髪のロングヘアーに、淡いピンク色のワンピースを着た、モデルのような美人の女性がいた。


(確か、鷹史は今日、有給使ってたよな……)

ぼんやりと思い出す。
ということは、どう考えても仕事ではなくて、プライベートの時間だ。
二人は、ウインドウショッピングでもしているのか、女性が嬉しそうに鷹史の腕に抱きついている。
ここからは、鷹史の顔は見えない。


(彼女……だよなぁ)


あんなにオレに好きだって言ってたくせに、あんなに美人な彼女がいたのかよ。
それなのに、翻弄されて、アイツの思惑通りに気持ちが揺れてるオレって間抜けだな。
心の中で、乾いた笑いをする。

その後の、食事は味も分からず、食べた気がしなかった。
太田に、魂が抜けたような顔してるって言われたけど、それすらも気にならない位、オレはぼんやりとしていた。

暗い道を、重い足取りで帰路に着く。
昼間に見た光景が、ずっと頭から離れない。


(バカだなオレ。今更気付いたって……)

本当に今更だ。
こんなになるまで、自分の気持ちをハッキリと気づけないなんて。
オレは、鷹史のことを好きになってたんだ。


「つっても、今更だよな…」

自傷的に笑い、呟く。
マンションの前に着いて、玄関先に誰かがいるのが見えた。


(鷹……史…)


驚いて、足が止まる。
なんでここに、とか。彼女は?とか。色んなことが頭を過ったけど、声には出ない。