友達以上、恋人未満8 本文へジャンプ


固まって動かないオレに気付いたのか、ゆっくりと鷹史が近付いてくる。

「おかえり。今日は遅かったな」
笑いながら近付く鷹史の顔を見ることが出来なくて、自分の足元に視線を落とす。
「雅美?」
いつもと反応が違うオレに気づいて、鷹史が手を伸ばそうとする。
しかし、反射的に一歩下がると慌てて話す。

「あ、あの残業しててさ……それで、その……」
オレの慌てて話す様子を見て、不思議に感じたのか首を傾げながら、また近付こうとする。

「まさ」
「あ、ああのさ!オレ…今日すげー疲れてるから、また今度な!じゃ…」
鷹史の言葉を遮るように、矢継ぎ早に答える。
そのまま、速足で玄関へ向かう。
扉を開け、閉める前に力強い手に腕を掴まれる。

「雅美!」
そのまま強引に、部屋の中に身体を滑らせるようにして入ってくる。
「ちょっ…」
「どうしたんだ?俺、何かしたか?」
訳が分からない鷹史は、オレに問い詰める。

(何かしたか、だとぉ!?)
昼間に見た光景が、鮮明に蘇る。
ムカムカとした感情が沸き上がる。
(彼女がいるくせに、散々オレに……!)
掴まれた腕を思い切り振り払う。

「お、お前にとったら二股なんて、普通なのかもな!でも、オレはそういうのむ、無理だし、彼女にも、悪いだろ…?」
「………は?」
鷹史のポカンとした顔を見ても、喋りだしたら止まらない。
「あ、あんな美人な彼女、いるのに男の俺なんかに、す…好きとか言うんじゃねーよバカ!」
「あ、あの…雅美?」
「オレ…オレがバカみてぇじゃん……」
ポロリと涙が溢れた。
鷹史の驚いた様子が、雰囲気でも分かる。
「バカだよな、オレ。今頃気持ちに気づいても遅いのに……」
これは、ほぼ独り言のようなものだ。
正直、鷹史の顔は見るのが恐くて、一度も顔を上げていない。
きっと、彼女とのことがバレて驚いているんだろう。
微妙な空気から逃れたくて、鷹史の身体を押す。
「悪いな。オレの言ったことは忘れてくれ。」
「…………」
「あ、仕事ではちゃんとするからさ。気にすんなよ」
少しでも情けないオレの姿を見せたくなくて、精一杯の虚勢を張る。

押しても鷹史はピクリとも動かなくて、その代わりオレの腕をとる。
「今、なんて…」
鷹史は固まったままの表情で、聞き取りにくい程、小さな声で呟く。
「雅美…気持ちって…?」
どこか、ぼんやりとした顔でオレの顔を覗き込んできた。
今日初めて、ハッキリと正面から鷹史の顔を見て思わず心臓が跳ねる。
「だから、もういいって」
ほんのり赤らむ顔に気付かれたくなくて、顔をそらす。
しかし、今度は両手で顔を掴まれる。
「オレのこと、好きになったの?」
「………っ」
どこか、キラキラした目になっているのは気のせいだろうか。
「え、ほんとに?まじで!?」
オレの顔を掴んでいる手が密かに震えてるのに気付く。
居たたまれなくて、鷹史の両手を外そうと身をよじる。
「も、いいって……離せよ」
グッと手に力が入ったかと思うと、オレは鷹史にキスをされていた。

「――――!?」

驚いて、オレは動きを止めた。
なんのキスか分からず、混乱した頭で必死で考える。
(なんだこれ…お別れのキスってやつなのか?)
その考えが浮かんだと同時に、ショックと悔しさを感じた。
鷹史からのキスに心の中では嬉しさを感じつつ、馬鹿にされたように思えて、思い切り鷹史の腹を殴る。
「ぐぇ……」
「ば、馬鹿にすんな!お、オレは二番手になるなんて御免だからな!」
顔を真っ赤にして怒るオレに、思い出したかのように鷹史が話し出す。
「そ、それ!二番手とか、彼女ってなんだよ!なんの話だよ」

ここまで来て、シラを切る気か!?
腹立たしさに、思わず舌打ちをする。