【友達以上、恋人未満】5


あ。
なんかイイ匂いがする。
今日の晩飯の匂いかなー。
あれ?オレって実家に帰ってたっけ?
あー、でも旨そうな匂いだー。
なんの匂いだっけ・・・これ。
肉・・・いや、ジャガイモ・・・・。


「肉じゃが・・・」

うっすらと目を開けると、頭に気持ちいい感触。
オレ、頭ナデナデされてる・・・。
真横にいる人物に目を向けるも、寝起きの状態でははっきりと見えない。
相手が俺が目を覚ましたのに気付いた様子で、小さく笑う気配がした。

「起きたか?」

柔らかい、優しい、声。

――ああ、知ってるオレ。
昔から、知ってる、声。

「作るのに少し時間がかかった」

言いながら、オレの頭を撫でるのを止める様子はない。
オレも気持ちいいから止める理由もない。

「食うか?」

たか、ふみ・・・

「ん?」

あ、のさ・・・

「うん?」

それ、すっげ・・・・

「それ?」

あ、たま・・・きもち、いー・・・

「・・・・」

もっと、し、て・・・・

「・・・・・・・・あー」

??

「うん、分かってる。お前は寝ぼけてるもんな。いや、そもそもそんな意味じゃないんだろうけど・・」

たかふみー・・・

「はいはい、わかったから。んな声出すなバカ」

こ、え・・・?
オレの声、へん?

「いや、変っつーか・・・あ゛ー」

オレ、ね。お前のこえ、すき。

「・・・・・・」

て、も・・・かおも、すきだよ・・・

意外に、やさしいときも、すき。

「・・・意外は、余計だろ」

オレね、昔からお前のことすき。

「―――っ」

オレのね、憧れ、なの・・・

自慢の、幼馴染・・・

 


◇◇◇


な、なんだったんだ・・・今の。
目の前には、幼馴染兼思い人。
穏やかな顔してスースー寝入ってる。
というか、先程までは目を覚ましていた。
だが、きっと寝ぼけていたのだろう。ああ、きっとそうだ。
普段の雅美からは想像もつかないような言葉が飛び交った。

昔から好き。
憧れだの、自慢だの、と。

理性が切れそうになるのを必死に抑えた。
それでも、目の前に据え膳を喰わぬは男の恥だとも言うし。
バカみたいに心臓をドキドキさせてゆっくりと雅美に近寄る。
寝ぼけてるとはいえ、思ってもいないことは言わないだろう。
きっと、多分あれが雅美の本音だろう。
だが、この年上の幼馴染にもプライドある。
きっと年下の俺のような、ましてや男に言い寄られて判断に戸惑っているのだろう。
それでも。
それでも、1%でも可能性があるのなら俺は引くつもりは更々ない。
もう引けないのだ。
俺には雅美を諦めることは、無理なのだ。
会えなくなった日々は俺を苦しめるのに十分だった。
俺は昔からそうだ。
年上の幼馴染に甘えて、甘えて、嵌まってしまった。
きっと、俺が雅美から離れられないだけなんだ。

規則正しい呼吸を繰り返す口元を見る。
少しだけ、ほんの少し。
と自分に言い訳するように俺は雅美に吸い寄せられるようにして顔を寄せる。
もう何度もキスをしているのに、こんなに無防備な雅美にしようと思うと僅かな罪悪感がある。
それでも我慢できなく、ゆっくりと口づける。

「ん」
息がし辛いのだろう。小さな、吐息のような声が漏れる。
すると、雅美は口を開け、ペロリと俺の唇を舐めた。
「―――ッ!」
ドクン、と心臓が跳ねる。
少し、という考えはあっという間にすっ飛び、むしゃぶりつくように舐める。
雅美の舌を思いっきり吸い、口腔内を犯す。
「んっ・・んぅ・・・」
息苦しいのか、雅美の眉間に皺が寄る。
目元もうっすら赤みを増して、それすらも俺を誘っているような感覚に陥る。
可愛い、可愛い。
いつから、幼馴染に、年上の男に恋情を抱くようになったのか。
こんなに焦がれてしまったのか、遙か昔過ぎて思い出すことも困難だ。
愛しい、この人に汚れた欲情を抱くのに。
それでも、ただただ愛しく愛でるだけでもいいとも思う。
矛盾した想いは、オレの気持ちを裏切って狂ってしまったのか。
それさえも、今はよく分からない。
ただ、目の前の愛しい人を誰にもあげたくなくて、自分だけのものにしたいのだ。
そう、それはある意味子供のように純粋な独占欲なのかもしれない。

それでも、俺は紛れもなく立派な大人で、だからこそ俺のアレはこんなになって―――。

 


◇◇◇

「ん、ん・・・はぁ」
苦しい。
「・・ぁ・・・ぅん・・」
苦しい、苦しい。
「んん、んぅ・・・っ」

「苦しいじゃねーか!!ボケ!!!」

ゼェゼェと息を吐くオレは、きっと怒りと苦しさで顔が真っ赤のはずだ。
酸欠で軽い眩暈でも起こしたのか、くらくらする。
目の前には、先程までオレの口を塞いでいた幼馴染の姿がある。

「オレを殺す気かー!!?」

思いっきり睨みつけてやると、普段より情けない顔した男前な顔が見える。
「すまん。お前が俺の口を舐めるもんだからつい我を忘れて・・・」
「は、はぁ!?オレが、いつお前の舐めたよ!」
「ついさっき。その姿があまりに可愛かったから調子に乗ったら、雅美の色っぽい声も聞こえて更に」
「だぁーーー!!!もう!止めろアホ!!」
ベラベラ喋る鷹史の言葉を遮るようにして叫ぶ。
「てか、人の寝込み襲うなよな。」
油断して寝たオレもアホだけど。
「・・・と、いうかさお前」
「なんだ」
オレは視線をゆっくり下へと動かす。
視線の先には、やや膨らんだ鷹史の股間。
「何故に、そこが膨らんでんの?」
「――ああ、さっきので勃った」

「勃った、じゃねーよ!!この変態!」
「仕方ねーだろ。お前が可愛すぎるからいけない」
「オレの所為にするな!」
真顔で言う鷹史は、照れた様子がない。
言われたオレのほうが恥ずかしいってどうなんだ!?
ああ、それでも恥ずかしくて鷹史を直視できない。
「なぁ、雅美」
「な、なんだよ・・」
いつもより甘えた声の鷹史の声に、ギクリとする。
「俺の触って」
ボワッと更に顔を紅潮させて一瞬だけ息が止まる。
「あ・・アホか!な、なんでオレが・・!」
ドキドキ。心臓は嫌悪なんかとは違う、ドキドキ音を発している。
おかしい。おかしい。
普通は男に、んなこと言われたらゲロもんだろう。
なんで、オレ・・・。
一瞬だけ、オレが鷹史のアレを触る想像をしてしまった。
その瞬間、小さくオレのものが反応したのが分かった。
「―――っ」
いつの間にか、近づいていた鷹史がオレを後ろから抱き締める。
オレの尻に奴の硬い感触が触れる。
それだけで、オレの背筋を何とも言えない感覚が走る。
さっきからオレの心臓は壊れてしまうのでは、という程鳴っている。
「やっ・・」
「さっきお前が言ったこと教えてやろうか」
耳元で低い、甘い声が響く。
「は?なにそれ、ってか、当たってるから・・」
「昔から好き」
「・・・は?」
「声も顔も手も好き」
「・・・・・」
「意外と優しいとこも、好きだってな」

うっすらと、した曖昧な記憶がぼんやりと浮かび上がる。
え、なんだっけ・・・あれ?なんかついさっきのような――


オレ、ね。お前のこえ、すき。
て、も・・・かおも、すきだよ・・・
意外に、やさしいときも、すき。
オレね、昔からお前のことすき。

オレのね、憧れ、なの・・・

自慢の、幼馴染・・・


「!!!」

ボワッと湯気が出るのでは、というほどオレの顔は紅潮した。
おおおお思い出した。おおおオレってば、なんてことを!!?
オレの反応に気付いた鷹史から小さく笑う気配を感じた。
「あ、いや、あれはなんつーか!お、オレ寝ぼけてて」
「思い出したな」
「――ぁ、う・・違う、違うんだ。あれは、ほら小さい頃のってことで」
混乱したオレは自分でも何を言ってるのかわからない。
それでも、なにか喋ってないと、という思いだけで口を動かした。
「昔から、って言ってたぞ。継続中なんだな」
「い、いやいや!それは聞き間違いだろお前の。昔は、だって」
「そうか、そうか。嬉しいなー」
「って聞けよ!!」
鷹史は本当に嬉しそうにオレをぎゅっと抱きしめる。
回された腕が徐々に下に動いていく。
「ぅあ!?」
「あれ、なんか反応してないか?」
きゅっと軽くオレの、アレを握られる。
驚いたオレは思わず声が出た。
「嬉しかったからお礼をしてやろう」
「い、いいいらない!遠慮します!辞退!」
「却下します」
「うわー!ぁ、うあ・・バカ触んな・・っ」
既に反応してたオレのものを布越しに触ってくる。
止めようとするオレの腕は、鷹史の片腕で押さえられて身動きが取れない。
「・・っ・・・ぅあ・・ん・・・」
「なあ、わかる?俺の感触・・」
はあ、と生温かい息がオレの首にかかる。
完全に興奮してる鷹史の声は、やや上ずってるように聞こえた。
「し、しらねーよ・・っん」
既にオレのものはズボンの中で主張をしていて、窮屈な思いをしているようだった。
じんわりと先走りが出るのが分かった。
「ぁ・・・あ、あ・・やっ」
「キツイ?結構、おっきくなってきたな」
「っるせぇ・・・ッ・・」
それでも、鷹史がオレのズボンを下ろす様子はない。
いつまでもねちっこく擦られても絶頂までにはまだまだ。
我慢できず、無意識にオレはお尻を動かしていた。
「――なあ、挿れたい・・」
はあ、という吐息と共に吐き出された言葉。
「雅美が欲しい。な、お願い」
「――――ッ」
いつになく、自信なさげな小さな声。
それでいて、熱を帯びた熱い声。
甘い、声―――。
「頼む。俺を欲しがれよ・・」
この傲慢男が、俺様な男が、お願い、だと?
顔は見えないが、声は情けなく、明らかにいつもの様子ではなかった。
「――雅美・・」
甘えた声は、不覚にもオレをときめかせた。


「て・・・手でなら、してやる・・・」


そう、不覚にもときめいてしまったオレはそんなことを言ってしまったのだ。