【友達以上、恋人未満】4

それからというもの、鷹史は俺にキスを仕掛けるようになった。
それは、3日置きだったり連日続くこともあった。
もはや、3日に一回という約束は守られていなかった。

それでも、鷹史とのキスでレベルを上げようと考えたオレは特に反論しなかった。

今日も今日とて、キスをされている。


「……ん…ッ……っはぁ…」

舌を絡める音が卑猥に響く。
鷹史の腕がオレの腰回りに巻きつき、それに応えるようにオレも奴の腕にしがみつく。

「…ぁ………ッ…んぅ…」

鷹史とのキスにも慣れて、今では自分から舌に吸いつくこともある。
そんな時は、強引な鷹史も一瞬だけ動きが止まるのだ。
それが楽しくて、よく不意打ちでやってしまう。

「……ずいぶん、積極的になってきたな」
濃厚なキスの後にニヤリと笑いながら言う。
赤い舌がペロリと自分の口の端を舐めたのが目に入る。
「おかげさまで。」
オレは、軽く息を吐いてなんでもないように答えた。
きっと鷹史は不思議に思っているだろう。
あんなに嫌がっていたのに、今では俺から絡める時があるのだから。


「なあ、雅美……この後家に寄ってっていいか?」
少しだけ声が硬く聞こえた。
見るといつもと変わらないようでいて、少しだけ緊張してるようにもみえる。
(珍しいな…わざわざ聞いてくるなんて)
そう。いつもは勝手に付いてきて、勝手に上がって行く奴なのだ。

「何か、用事か?」
「……んー、まあ、そんなとこ」

具体的には教えてくれそうにないようだ。
いつもより言葉を濁して、オレの返事を待っている。

「まあ暇だからいいけど…。あ、そういえば昨日親父から酒届いてさ!」
オレの親父は昔から酒飲みで、たまに気に入った酒があるとオレに送ってくれる。
「へえー、それは期待できそうだな」
鷹史も親父の酒好きは知っているから、満更でもなさそうだ。
「まあお前と、ってのはあれだけど一人よりはいいもんな」
「あれってなんだよ」
ムッとした表情で軽く睨んでくるが、今更コイツの睨みなんて効かない。

 

仕事が終わり、そのまま二人して帰宅する。
鷹史も慣れたもので、キッチンからコップを適当に二つ持って座る。
「酒って、焼酎か」
「そう。親父今焼酎にハマってるみたいで、最近はずっと焼酎なんだぜー」
ドン!と目の前に瓶一本置く。
今回のは、匂いが臭くなくて飲みやすい、と勧めてきた。
「ほら」
オレは焼酎を持ってコップを出すよう促す。
自分でも注いで一口、含む。

(……ん、結構いいな、これ)

サラッとしてて飲みやすい。
息を吐くとここ最近の疲れも取れるようだ。
しばらく、無言でお互いチビチビと舐めるようにして酒を飲む。

(そーいえば、用があるって言ってなかったか?)
ふと、鷹史が酒を飲む手が止まり、ここに連れてきた理由を思い出した。
「なあ…」
聞き出そうと言いかけた途端、机にコップを置く音が響いた。

「つまみが足りねえなー」
「え?」
「いや、旨い酒があってもつまみが少ないからさ」
「あー、少ししか買ってねえな…」
見ると、残りのつまみがあと少しの状態だった。

(買ってきた方がいいか…?)
落ち着いた腰を浮かせようか悩んでいるオレに鷹史から声がかかる。

「俺、作ろうか」


(―――え、作る……?)

目が点、となる。
「え、おまえ料理、出来んの?」
「当たり前だ、大学の時は一人暮らしだったからな」
スッと立ち上がり、既に腕まくりしている。
(え、オレも一人暮らししてたけど……)
「雅美は作るの嫌いだろ」
「……ん、まあ、面倒だな」
「やっぱり、な」
鷹史は、呆れたような苦笑いを浮かべている。
その顔をみると少し、悔しい。

「別に、男はメシ作んなくたって……」
「言うと思ったぜ。意外と頭堅いからなーお前」
「そ、それ言うならお前だって!料理なんか出来るとか、詐欺だ……」
悔しくて、睨みつけるが鷹史はさっさとキッチンへ行ってしまう。
「ま、適当に作ってやるよ」
どこか嬉しそうな声に、まいっか、と諦める。

(ふーん。コイツが料理、ねぇ…)
人は見掛けによらないものだ。
こんなゴツイ野郎に料理をする趣味があったとは……。
一定のリズムで聞こえる包丁の音が、なんだか心地いい。

(手料理かぁ……何年振りだろ…)

先ほどからチビチビ飲んでいたと思った酒が結構なくなっていることに気付く。
旨い酒って飲んだ気がしないから、いいよなぁ~。
どこかふわふわした気持ちで、また飲む。

しばらくすると、イイ匂いが漂ってきた。
(あ、なんの匂いだっけ、これ……)
目を閉じてクンクンと犬みたいに匂いを嗅ぐ。
頭がフラッとしてきたが、心地いいからそれも気にならない。

(いいよなー鷹史は…)
どこかボーっとした頭で考える。
(格好いいし、モテるし、頭だっていい、し……)
視界もボンヤリ、無意識に瞼が閉じてしまいそうだ。
(それに比べて……オレは平凡で、頭だって普通だし、そんなにモテる訳でもねえし……)
体がふらつくまま、床に寝転がる。
視界に移るのは、いつもの見慣れた天井だ。

「いいなぁー、鷹史は……」

考えが声に出てても気付かない。
段々、眠気が強くなっていく。
遠くから、足音が聞こえてきた。

(あー……つまみ、食わなきゃ…)
足音が聞こえるほうに顔を向けるが、視界は暗い。
どうやら、瞼はとっくに閉じてしまったようだ。

 

「………雅美」

 

どこか、遠いようで近い声にオレは口の端を上げて笑うことで返事をした。