【友達以上、恋人未満】1

 

あの日から、オレと鷹史の関係が少し変わった。
付き合ってる、わけではないが……なんというか、鷹史のオレに対する接し方が変なのだ。
昔のようにいじわるするわけでもなく、それこそ正にベタ甘なのだ。
付き合ってる人にするような甘さ。
会社ではいつも通りのような気もするのだが、二人きりになるとすぐキスしてくるのだ。

これは、一体どういう……?

ふと疑問に思うが、多分あれだろう。
あの日、オレが打ち明けたこと。

“好きな人と聞かれて浮かんだのが鷹史”

ということだ。
しかし、好きかどうか分からないって伝えたはずだ。
なのに、まるで付き合ってるかのような鷹史の接し方に戸惑いを感じる。

でも、最近気付いたことがある。
それは不意打ちでされる鷹史のキス。
普通は男にされるという事だけで吐き気がしそうなものだが、その……なんつーか、最近はそこまで嫌じゃないような気がするのだ。
別に好きになったとかじゃないが、驚きはするものの嫌悪感は特にない。
そう思い始めて、余計に鷹史を意識してしまって嫌なのだ。
好きになろうなんてしてない。
出来れば、若気の至りとして終わって欲しい。
可愛い彼女を作って笑い話にしたいくらいだ。

と、兎に角、鷹史のあのキス行為をどうにかしないといけない。
このままだと、ズルズルと鷹史のペースに乗せられてしまう。
考えただけで恐ろしい!
なんとかしなくては……!!
オレは新たな決意と共に拳を握り締めた。

 

 

◇◇◇

 

 

「た、鷹史…ッ…ちょ、…」

ここは、会議室。
今日は会議がないので使われる予定はない。
なのに、何故いるのかって?

それは―――

「た、鷹史っ!おいこら……ッ」
「手、退けろよ。邪魔」
ニヤニヤしながら鷹史はオレの唇を奪おうとする。
「ば、っかやろ!何が会議室に忘れもんだ!何もねーじゃねーか!」

そうなのだ。
オレは鷹史に「会議室に忘れもんした。雅美も手伝って」というあまりにもベタな手に引っ掛かってしまったのだ。
(オレの馬鹿野郎!!)
まんまと引っ掛かってしまった自分が憎い。
オレが自分を責めてる間にも鷹史の行為は止まない。
力じゃ敵わないのを分かってはいるが、なんとか抵抗はしてみる。
片腕で軽々と腕を退かされて、もう片方の腕で顔を掴まれる。
もう、こうなってしまってはどうすることも出来ない。
目をぎゅっと瞑って奴の顔を見ないようにすることで精一杯だ。
「おい、雅美。なんで目ぇ瞑るんだよ?」
(当たり前だ!なんで目を開けて待ち構えるようにしなきゃならんのだ!?)
心の中で反論する、が勿論鷹史には伝わらない。
「ふーん、偶には雅美からしてくんねーの?」
その言葉を聞いて反射的に目を見開く。
「―――はぁ!??」
何言ってんの?こいつ。
そんな気持ちを込めて呆れた顔で鷹史を見る。
すると、きょとんとした鷹史と目が合う。
「なんで、驚いてんの?」
「いや、驚くだろ普通。てか、何でオレがしなきゃいけないんだ?」
「――は?付き合ってたらするだろ?」
「いや、だからな?なんでそんな――――って、ええぇ!!!?」

驚いた。
いや、マジでビックリだ。
更に驚愕で見開いた目で鷹史を凝視する。
あまりの反応に鷹史はどこか顔が引きつってる。
「雅美……」
「待て。確認だ。確認をしよう」
「………………」
こくりと小さく頷く鷹史。
それを見届けて、オレも小さく頷く。
「えーっと、鷹史とオレは付き合ってんの?」
こくり。
憎らしい程奇麗に頷く。
「………いつから」
「一週間前」
一週間前。それは、まさにあの日、オレが鷹史に気持ちを伝えた日だ。
だがしかし、付き合おう。ええもちろん。てな事には断じてなってはいない!
そもそも、オレは伝えたはずだ。
好きかどうか分からん、と。
それに奴もそれでもいいと言ってたじゃないか。

「……オレ、言ったよな?好きかどうかわからないって。」
「ああ言ったな」
「――!じゃあ、どうして!?」
覚えててなんで付き合うなんて話になってんだ?
オレは弾かれたように鷹史の顔を見つめる。
「……だって、雅美は“好きじゃない”じゃなくて、“好きかどうか分からない”んだろ?」
「……そ、うだけど?」
真剣な表情の鷹史と目が合う。
「だから、好きになるまで俺と付き合えばいい。そしたら答えが出るだろ?」
自信満々で言う鷹史に思わず頷きそうになってしまう。
「………答え?」
「そう、答え。付き合っても俺のことを恋愛対象として見れなかったら“好きじゃない”になる」
うん、と素直に頷く。
「で、付き合って恋愛対象として俺の事が好きになったら“分かる”ようになるだろ?」
な?と問いかけられ、少し考えたが確かにそうなのだ。
分からない、なら答えを出すしかない。
いつまでも中途半端ではいられない。
そう言う意味で“付き合う”ってことなのか?
「――なるほど…」
小さく、けれど確かな言葉に納得する。
ニッと笑う鷹史は間違いなくいい男だ。
こいつと付き合う、か……。
この年になるとそれなりのお付き合いもしてきた。
だが、男と付き合うなど勿論のこと、初めてだ。
しかも、相手は幼馴染でもある鷹史。
このまま納得して付き合ってもいいのだろうか…。
オレの中で釈然としない思いが募る。

「だから、雅美。俺と付き合おうぜ」
自信に満ちた目でオレに言う鷹史に迷いはない。
男、そう男なのだ。自分も。
そこでふと思った。
いつから、何で鷹史はオレのことを好きになったんだろう?
聞いてみたい衝動に駆られた。
「……なぁ、鷹史」
「ん?」
どこか無邪気な表情で聞き返す鷹史。
「あのさ、お前はなんでオレのことが好きなわけ?どこが、いいの?」
面と向かって聞くのはなんとなく恥ずかしくて、歯切れが悪い質問になってしまう。
「――――さあ?」
きょとんとした表情で答える。
え、と思わず声にして呟いてしまった。
(―――さあ?……って)
あんなに積極的に言うのだからそれなりの理由があるのかと思えば、返って来た答えは曖昧だ。
「なんだよそれ?さあ、って……」
「いや、改めて考えたこと無かったからなー」
腕を組んで頭を捻り、唸っている。
それって、もしかして……

「な、なぁ…やっぱり、勘違いってことはないか…?」
「………勘違い?」
「あー…、急に親しかった身近な人物がいなくなって寂しい思いから恋愛感情って勘違いして…」
「勘違いねぇ、んじゃ、勘違いで男の雅美に欲情するか?普通。」
「――――ッ!?」

オレは息を飲んだ。
(――よ、欲情……って!)
顔が見る見る真っ赤に染まる。
目の前の鷹史は呆れたようにオレを見ている。
「あのな雅美、さすがに勘違いでここまでこれねぇよ…」
「―――だよな……は、はは…」
オレは乾いた笑いを出すことで精一杯だ。
まともに鷹史の顔なんか見れなくて、顔を逸らしてる。
言うんじゃなかった…。
オレは速攻で後悔した。

―――でも、そうか。
鷹史はオレに欲情すんのか……。

心の中でそんなことを考える。
考えた途端、背中にゾクリと何かを感じた気がした。
ハッとして、オレは頭を振って考えを消した。

「雅美」
急に呼ばれて思考が動き出す。
「――な、なに!?」
反射的に声を出して反応する。
しかし、不自然なのは見て取れた。
さっきの話に動揺してるのは見え見えだった。
「…っく、顔、赤いぞ」
喉の奥で笑う声と共に己の顔の赤さを指摘された。
理由が理由なだけに言い返すこともできない。
ただ顔を伏せて、必死で顔の赤さが消えることを願うしかない。
「あんま可愛い反応すっと、襲うぞ?」
ボソリとオレの耳元で囁かれて腰に甘い疼きが走る。
「――――ッ!」
更に顔を真っ赤にさせてしまう。
「う、ぅるせーよ!可愛くなんかねえ!」
可愛いなんて馬鹿にされたように思えて勢いだけで言い返す。
言い返すが、顔はもちろん上げれなくて伏せたままだ。
ふと、視界に入る鷹史の身体が少しづつ近づいてきた。
なんだ?と思うと同時に身体を包み込むように抱きしめられた。
「!」
ビックリして顔を上げた。
目の前には端整な顔立ちをした鷹史の顔がある。
目を見ると、それはほのかに欲情の色を含んでいた。
(な、なんで―――!?)
一体、どこがきっかけで欲情したのか分らない。
だが、その本人はどんどん顔を近づけて来た。
「―――ん!」
瞬間、噛みつくようなキスをされた。
やはり、嫌悪感はない。
(なんで……?)
奪われるようなキスに目の前はクラクラする。
絡み付く舌は、ここ最近覚えた感触だ。
少しづつ、この乱暴なキスに慣れてしまっている自分に気付く。
「ん……ぅ、…ッふ…」
何度も角度を変えてキスをされる。
頭に直接響くような卑猥な音がする。
舌と舌を絡める音。
聞きたくないのに耳には容赦なく入ってくる。
「…ぁ―――っ……ん、ん…」
甘噛みされ、吸われ、口の端から飲み込めない唾液が零れる。
どれくらいしていたのだろうか、酸欠になりそうなくらい長いキスからやっと解放される。
「…は…っ……はぁ、はぁ…」
深呼吸を繰り返し、肺に酸素を送る。
(マジで、苦しかった―――)
苦しさに、まだ口の端から流れる唾液は拭えていない。
「…ふ、エロいな雅美…」
頭上から声がしたかと思うと、肩を掴まれてそのまま壁へと押しつけられた。
「ぃ――ッ!」
背中を強く打ち、小さく痛みを訴える声が出た。
グイッと顎を掴まれ、強制的に上に向けられる。
そこで、やっと鷹史の顔を見る。
鷹史は目元を赤く染め、瞳には完全に欲情した色が浮かんでいる。
ゾクっとした感覚が背中から腰に掛けて流れた。
今、自分がどんな顔してるかなんて分からないが、もしかしたら自分も欲情してるのかもしれない。
どこかふやけた頭でボーっと鷹史の唇を見つめる。
先程のキスでまた乾いていない唇はテカテカと互いの唾液で濡れている。
それがとても卑猥で、またキスしたい衝動に駆られた。

「……ッ……あんた今すっげーエロい顔してる」
小さく舌打ちをする鷹史。
両腕を壁に縫い付けられてる状態でまたキスされる。
身動きひとつ出来ない状態で、されるがままだった。
思考回路はキスによってとろけてまともに動かない。
グッと更に鷹史の身体を押し付けられる。
下半身のとこに違和感を感じた。
何か、熱いものが当たってる……。
ぼやけた思考で考える。
しかし、すぐに強引なキスによって遮られる。
「んぅ……、っ…はぁ…」
足がガクガクしてきて、立ってられない。
不意に片方の腕を、放された。
まともに立っていられないオレは反射的に鷹史の腕へと捕まる。
ゆっくりと唇が離れる。
互いの唾液が糸を引いているのが見えた。
羞恥で顔を赤く染めるが、抵抗する程の力はもうない。
荒い息を整えるために顔を伏せて目を閉じた。
「――――?」
ふと、下に違和感を感じた。
特に何も考えずに閉じていた目を開けた。
「――――ッ!」
自分の目に入って来た現状は、なんと鷹史の手がオレのアレをズボンの上から揉んでいた。
少し乱暴な動きは小さな痛みをオレに与える。
「…や、……っい…、……」
何が起きてるのか分らなくて困惑するしかないオレ。
顔を左右に振って、この行為を止めて欲しかった。
それでも止めるどころか、益々動きは大胆になっていく。
やだ、やだ、と小さく抗議するが鷹史の手は動きを止めない。
小さな痛みしか感じてなかったのに、少しづつ違う感覚を覚える。
(――――ぇ…?)
グニグニ揉まれて、だんだんまるで自慰をしてるかのように思えてきた。
ピクッとオレの身体が反応する。
その動きを見逃さなかった鷹史は、揉む動きを優しくしてきた。
力加減を覚えた鷹史はどんどんオレを追い詰めていく。
「……っ、は……っあ…」
浅く息をしていたが、押し殺せなかった声が漏れる。
「気持ちよくなってきたか?」
ニッと笑う気配がした。
恥ずかしくて顔を上げれないオレは目を瞑って首を左右に動かすしか出来ない。
段々、気持ちよくなっていく感覚にどうしようもない苛立ちが募る。
しかし、今のオレにはどうすることも出来ない。
気持ちいいと、思う気持ちと駄目だ、と自制する思いに苛まれる。
「鷹ふ…み、……や、やぁ…ッ」
止めろと言おうとしても甘い喘ぎへと変わってしまう。
(―――悔しい)
そう思うが、上り詰める快楽に思考はあやふやになってしまう。
「………くそっ…」
苛立たしく聞こえた小さな声。
何かに耐えきれないように、鷹史はぶつけるようなキスをしてきた。
身体が壁に押さえつけられ、受け止めることしかできない。
すると、鷹史は空いている片手でオレのベルトを外しに掛った。
「―――ふぁ……!」
舌の動きにゾクゾクする感覚が流れた。
押さえつけらてる状態のオレはその行動を止めることも出来ない。
カチャカチャと音がして、簡単に外される。
ズボンから取り出されたオレの息子は半勃ち状態になっていた。
それを扱きながら、更に唇を重ねた。
「んん、ぁ……あ、ああ……っ」
キスの合間に漏れる声はもはや、オレの声じゃない。
甘い声に思考回路も鈍る。

(気持ちいい―――)

素直にそう思った。
鷹史はオレの先端を指の腹で擦る。
その絶妙な動きに翻弄される。
「…あ、ぁ……っん…」
甘い、吐息と共に零れる喘ぎ声。
およそオレの声だなんて思えない声だった。
「あぁ……はぁ…ん」
オレの分身は欲望に忠実でもう主張している。
震えるオレのものから先走りが流れる。
その滑りと共にくちゅくちゅ、と厭らしい音が聞こえる。
「や、だよ…た、か…ふみ……っぁ…」
少しでも抵抗しようと鷹史から顔を逸らす。
しかし、逸らしたところで現状は変わらない。
「何が、嫌だよ。気持ちいいくせに。……ほら、もうこんなに―――」
鷹史が耳元で小さく囁くように喋る。
耳にかかる息にも反応してしまうオレの身体が、憎い。
「――ち、違ッ……!――ぁ…う」
「違わない。素直に言えよ…ッ……なぁ、雅美…」
太腿に固くて熱い何かが―――

「――――ッ!?」

思わずオレは鷹史へと顔を向ける。
(信じらんねぇ…!こいつ……触ってないのに!!)
驚きに目を開いたオレを、鷹史は気付いたのかニヤリと笑った。
「勃つに決まってんだろ?こんな色っぽい雅美みたらさ」
チュッと、掠めるようなキスをしてきた。

「なんだ、それ!オレの所為だってのかよ!?」
ガッと噛みつくような態度で喰ってかかる。
「まあ…、それもある」
ふむ、と考えるような表情で鷹史は答えた。
一瞬、怒りによって忘れていた。
だが、オレは鷹史に一番の弱点を掴まれたままなのだ。
鷹史の爪が少しあたり、オレの身体はビクンと反応した。
「―――ッ!」
小さな呻き声と共に吐き出す吐息。
忘れかけていた熱を思い出し、またもや息が上がる。
「少しは俺の我慢の限界、かな。でもあとの大半は――」
言いかけて、そのまま早いスピードで扱かれる。
気持ちは高ぶり、もう限界は目の前まで来ているのが分かる。
くちゅくちゅと厭らしい音さえも耳には届かない。
聞こえるのは、自分の心臓の音、鷹史の吐息。
もう何がなんだか分からない頭が最後に聞いた言葉――


「俺をこんなに夢中にさせた、雅美の所為――だろ?」