07.タオル
「じゃ、またな。」
「ああ」
ちゅ、と軽く音を立てて鷹史がキスをする。
玄関先でキスなんて、なんか新婚みたいだな・・・って馬鹿かオレは。
ニッと笑うって玄関から出ていく鷹史の後ろ姿を見送る。
パタンという音と共に扉も閉まる。
シン、と静まり返った部屋が寂しく思えたのはきっと気のせいだ。
なんだかんだと理由をつけてくっつきたがる恋人の所為に違いない。
今日は珍しく、鷹史がオレの家に泊まらずに帰った。
なんでも、大学の同窓会があるらしい。
定年退職する先生がいるみたいで渋々参加するって言ってたな・・。
(あいつ、ちゃんと友達いんのかな・・?)
なんて、変な疑問が浮かぶが、世渡り上手な鷹史のことだ。きっと平気だろう。
寝室に戻ると、タオルが一枚ベッド上に置いたままになっていた。
ベッドをみると、先程の情事を思い出してオレは顔を赤くした。
(どうせ、アイツが使ったのだろ・・)
洗濯機の中にでも入れようか、とタオルを掴む。
その瞬間、フワリと慣れた匂いが鼻に届く。
(・・・・・ッ)
香水の匂いみたいにキツくなく、イイ匂いがする。
―――残り香。
まるで、鷹史が近くにいるみたいで体がピクリと震えた。
無意識の内にタオルに顔を近づけていた。
(―――あ、やば)
気付いた時には遅く、オレのものは反応していた。
「・・・・・・・匂いだけで、って・・」
自分の体の反応の早さに呆れてしまう。
目を閉じて、匂いだけに集中すると鷹史の姿を安易に想像できてしまう。
むずむずする下半身をほっとくことは無理で、ゆっくりと片手を伸ばす。
「・・・・・・っ・・」
ズボンを下ろして、直に触れてみる。
既にそこは熱を持ち、刺激を欲している。
(くっそー・・なんでオレが・・・)
あんな奴に欲情する自分が分からない。
でも、体は正直で自分の手だけでは物足りないのも知っている。
「・・・ん・・はぁ・・・っ」
緩く扱いてやるとむくむくと大きくなる。
もっともっと、と言っているようで何だか情けなくなってくる。
「・・ぁ・・・・ん、んぅ・・」
それでも、動かす手は止めれず、徐々に速くなる。
目をギュッと閉じてしまえば、まるで鷹史に触られている感覚に陥る。
『―――雅美、気持ちいいか?』
不意に、声が聞こえた気がした。
いや、記憶の中の声だってわかってる――けれど。
気持ちよくなっていく頭では深く考える前に頷いてしまう。
唇を噛んで、何度も頷く。
『―――声、出せよ』
「や・・・っ・・だ!」
首を振って嫌がる。
分かってる。記憶の中の声だって。でも、でも―――。
「あ、あぁ・・・た 、か・・・」
名前を呼ぼうとするが、慌てて口を閉じる。
変な声がでるのを止められない。
扱いてる手にヌルッとしたものが付いていることに気付く。
ビクビク、と腰が動くがそれすらも快感に変わる。
『―――――雅美、 』
「――ああぁッ・・・!」
ある言葉を思い出した途端、オレは呆気なく射精してしまった。
涙が滲む目をうっすらと開ける。
視界に映ったのは、オレが出した精液に濡れた右手だった。
息を整えると、深く息を吐く。
だいぶ落ち着いてきた頭で考えると、自分が如何に情けない状態かよく分かる。
(信じらんねぇ・・・)
まだ掴んでいたタオルをじっと見つめる。
まさか、オレが匂いに欲情してしまうとは。
(オレって、実は変態・・・?)
笑えない考えが浮かんだが、咄嗟に首を振って考えを消す。
(――いや、アイツの所為だ・・!)
ここにはいない恋人の姿を思い浮かべて、無理やり納得した。
実は変態さんな雅美(笑