2.誰にも触れさせたくない

 

 


「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


先程から、ものすごく不機嫌丸出しで無言を貫いている奴がいる。
眉間には皺が寄って、跡が残るんじゃないかってほどだ。
オレには、鷹史の奴がなんでこんなに不機嫌なのか分からない。

「・・・・・・あ、のさー・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・何だ」


(こ、こえーー!!)

 

いつもより数段低い声に、さすがのオレもビビる。
しかも、さっきからオレの方をちっとも見ようとしない。
そのくせ、オレの隣からは離れようとはしない。

(・・・ほんとに、何がしたいんだコイツは)

無意識にため息が出る。
そのため息が聞こえたのか、鷹史の体がピクリと動くとやっとオレを見る。
しかし、怖い顔は変わらず、睨んでくる。

「なにため息なんか吐いてんの」
「・・・・・・いや、だってお前顔怖いよ」
そりゃ、ため息の一つや二つでも吐きたいなるさ。
顔が怖いことを指摘してやるが、戻ることはなく、寧ろ更に眉間に皺が寄る。


「なんなの?お前。さっきから人のこと睨んで。オレ、なんかした?」
まったく身に覚えがないが、コイツは勝手に思い込んで暴走するからきっとオレのことだろう。

「・・・・・・・・・雅美は・・・してない、けど・・」
小さく呟いたと思ったら、歯切れの悪い言葉が返ってきた。
「けど、なんだよ?ハッキリ言えよ」
段々イライラしてきたオレはついキツイ口調になる。


「あいつ・・・お前の同期の、太田って奴。」

「・・・・は?太田??」

思いがけない名前に素っ頓狂な声が出る。
太田は、オレの同期で親友だ。
それが、なんでコイツが怒る理由に繋がる??
(確か、コイツと太田ってあまり面識ない気が・・・)

「アイツ・・・隙あればお前のことベタベタベタベタ触りやがって・・!!」

言い終わると同時に、鷹史は拳で床を殴る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 


一瞬、鷹史の言葉に思考がついていかない。
そんなオレのことはお構いなしでまだ怒っている鷹史。

「アイツぜってー雅美に気があるんだ!あんなにベタベタ触りやがって・・・!ムカつく・・」
「・・・・・・・・」
「だいたい!あんただってそうだ!オレが触ると嫌がるくせに、アイツの時は笑ってるし!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「恋人の俺の方が触る権利はあるだろ!!」


いつの間にか、オレを真正面から睨んで怒っている。
(んっとに、コイツは~~~~~~~)

くだらない理由に眩暈がしそうになる。
片手で顔を覆うと、ふと鷹史が動く気配がした。

「てことで、もっと触らせろ!」
「え、は?なに・・!?」
素早い動きでオレの腕を掴むと勢いよく引き寄せられる。

「どうせ明日も休みなんだ、今日は一日中やろう!」

(や、やろう!ってお前―――!?)

鷹史の意味する言葉を理解すると同時にオレの顔色は真っ青になった。


「って、まてまて!お、おい!どこ触って・・ちょ、鷹史!!」

 

抵抗しても、体格や力で敵わないオレは正に鷹史のいう予定通りにされたのだった。

 

 

 

 

 

 

【オマケ】

「おはよーさん!」
「・・・・・・・・・・」
「どうした?顔色悪いぞ?」
「・・・・ああ、太田。悪いけどしばらくオレに触らないでくれないか?」
「ん?頭撫でるなって?痛いのか?」


「犬が・・・・駄犬が、噛むんだよ・・・」

 

 

 

(??コイツん家って犬いたっけ??)←太田